施設で介護をしていると目の前にいる利用者に注目しがちですが、利用者の生活のことを思えば取り巻く環境、特に家族との関係性は軽視できないものになります。
今回は介護士と家族の関係性について、体験談を踏まえながらお話していきます。
なぜ介護士が家族との関係性を重視すべきなのか
家族との関係性を考える前に、まずはその必要性について整理しましょう。
介護をするうえで欠かせない基本的な考え方として「国際生活機能分類(ICF)」というものがあります。これは世界共通の考え方として2001年に世界保健機構(WHO)で提唱されたものです。
ICFは利用者本人を構成するそれぞれの要因を中立で捉え、生活の中での困難さや各要因の相互作用に焦点を当てたうえで「参加」を重視する考え方です。
上の図のように「心身機能・身体構造」「活動」「参加」のそれぞれの要因が「健康状態(変調または病気)」や「環境因子」「個人因子」へお互いに影響を与えています。
本人の全体像を捉え、それぞれの要因が互いに影響を及ぼすと理解することがICFの考え方を介護現場で実践する際に求められます。
そして「家族」はICFにおいては「環境因子」に分類されますので、本人の生活を支える介護士は家族との関係性をも取り扱う必要があります。
関係性が悪くなるとどうなるか?
ICFを見れば家族との関係性が本人に影響を及ぼすことが何となく理解できたかと思います。
とは言え「そんなに大事なの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんので、僕自身の体験談から「関係性が悪くなるとどうなるか」、その一例をお伝えします。
以前僕が有料老人ホームで働いていた頃の話です。
軽度の認知症を持ちながらも日常生活にはそれほど支障のない利用者さんがいました。
ただ時折部屋を散らかしてしまうというか、物をどこへしまったらいいかわからなくなってしまうようで、部屋中が衣服や広告だらけになるときがありました。
職員はその都度整理整頓していましたが、月日が経つにつれその頻度が増していきます。身体能力の低下とともについには衣服で足を滑らせ居室内で転倒、テレビに頭をぶつけたということで家族さんが病院へ連れていきました。
幸いケガも後遺症もなく事なきを得ましたが、当然家族さんは黙っていません。
「どうして部屋の掃除をしていないんだ!」と怒り心頭のご様子。
施設長から「普段から整理整頓を心掛けているがその合間を縫っての出来事だった」と説明をしますが、部屋で転倒した事実しか確認しようがない家族さんにはそんな言葉は通用しません。
ケアマネージャーを通じて一度は話が落ち着きましたが、半年もしないうちに「親戚がやっている信用がおける施設へ転居させる」と言われ、瞬く間に退所の流れとなってしまいました。
このように、たとえ職員が誠心誠意利用者さんのためを想って尽力しても一度家族さんとの関係性を悪化させてしまうと本人への介助すらさせてもらえなくなります。
そのうえ家族さんは友人知人に「あの施設はひどいところだ」と話しますから、その話を聞いた友人知人の方は「あの施設には自分の家族を入れたくない」と思います。
この輪が広がれば広がるほどその施設は入居者が減り、最後には採算が取れずに閉所も余儀なくされてしまいます。
家族との関係性を甘く見ていると、職員は介助ができないどころか自分が働く場所すら失ってしまう危険性があるのです。
関係性を悪化させない ①「見られている」意識を
では、介護士として家族との関係性を悪化させないためには何をすればよいのでしょうか。
まず介護士さんが間違えやすいのが「利用者さんへ誠心誠意関わっていれば、それは家族さんにも伝わっている」という点です。これは通所型施設でも入所型施設でも基本的には変わりません。
唯一例外があるとすれば、それは「介護士さんが介助をして利用者さんが笑顔になっている瞬間を家族さんが見ているとき」で、訪問介護の現場ではその機会が比較的多いようです。
ただそれも相手が人である以上、調子のいい日も悪い日もありますから過度な期待はできません。「想いは伝わる」という誤解は避けた方がよいでしょう。
通常、家族は自分の家族(利用者)がどのように扱われているかを直接見た場面でしか判断しようがありません。それが良い場面であれば介護士に良い印象を持ち、悪い場面であれば悪い印象を持ちます。
もちろん家族の見えるところで
「何をしてるの!」
「どうしてこんなことしたの!」
「早くしてください!」
と利用者を叱るような介護士は稀です。
しかし施設の中というのは独特の空気感が漂う場所ですから、世間的に見て非常識な「常識」が出来上がっている場合があります。
それは介護士と利用者の間では普段のやり取りからお互いに了承しているものでも、家族から見れば「うちの家族になんてことをしているんだ!」と怒りたくなるようなことがある、という話です。
家族からすれば「こんな事は聞いていない!」と裏切られて気持ちになりますから、介護士は「今の自分の姿を世間が見たらどう思うか」は常々意識しておくべきです。
介護士が持ちやすい「世間とのズレ」は以下の通りです。
①「ちゃん」「くん」などで呼ぶ、または呼び捨てする(子ども扱い)
②敬語を使わない(見せかけの平等関係)
③声掛けもせずなれなれしく体に触れる(フレンドリーの誤解)
④訪室時にノックをしない(プライバシーの侵害)
⑤勝手に本人の気持ちを代弁する、知ったつもりになっている(偽りの代弁者)
⑥本人の持ち物を許可も取らずに勝手に触る(所有権のはく奪)
⑦上から目線で指示を出す(主従関係)
普通に考えれば、どれも対等な関係からは生まれない態度です。
たとえ利用者がそれを受け入れていたとしても(それすら「受け入れさせているだけ」に過ぎない可能性もあり)、「そうしても許される」と考えるのは介護士の思い上がりであり、家族には到底受け入れられないものです。
まして社会がその事実を知ろうものなら、その介護士及び施設は非難の対象とされるでしょう。
関係性を悪化させない ②持ち物の扱い
多くの介護士さんが見落としがちなのが、利用者さんへの持ち物への配慮です。
そしてこの「持ち物への配慮」ができていないために、ある日突然家族さんから退所の意向を聞かされたり修復不可能なほど関係性を悪化させたりしてしまうのです。
なぜこんなことが起きるのでしょうか。
その原因を突き止めるうえで欠かせないのが「家族からの視点(第三者目線)」です。
介護士さんは、ともすると自分が携わる利用者さんに目を奪われがちです。
特に「ぬくもり」や「想いの強さ」を語る介護士さんはその想いが強いがゆえに利用者さんを取り巻く環境にまで目が行き届かないことが多々あり、ここに問題があります。
たとえばその人への介助は手厚くできているのに、その人の服が乱れていたりお茶などで濡れていたりしても気にならないというような状態です。
ここで偶然家族さんが面会に来られた時、家族さんが見える範囲は「濡れて乱れた服を着せられている自分の家族の姿」でしかありません。
介護士さんと利用者さんの関係性は「目に見えない」ため、このような状態でいくら介護士さんが自分の想いの強さを語ったところで
「でも濡れて乱れた服を着せているじゃない」
という目に見える現実を超えることが出来ません。
このとき想いの強さは「言い訳」と捉えられ、利用者さんにとって良い介助をしている介護士さんですら信用を失う場合もあるのです。
①「見られている」意識をでもお話しした通り、家族は自分の家族(利用者)がどのように扱われているかを直接見た場面でしか判断しようがありません。
普段どれだけ良い介助を行っていたとしても「その場面」に問題があれば、家族の判断基準はその「問題がある場面」になってしまうのです。
介護記録にどれだけ良いことが書いてあっても、施設から帰ってきた自分の家族が汚れた格好のままであれば、家族は「自分の家族を汚したまま帰すなんてヒドイ施設だ!」と怒り心頭になります。
着替えが雑にたたんであったり、バッグの口が半開きになっていたり、車いすに傷や汚れが目立っていたりと、目につく範囲の持ち物への配慮が足りていないと感じられたとき、家族の不信感はゆっくりと、しかし確実に溜まっていくのです。
まとめ ~介護は「お互い様」で成り立つ~
介護士と家族の関係性について、体験談を踏まえながらその重要性をお話していきました。
今回の話で介護士は利用者への介護サービスだけをしていればいい訳ではないことが見えてきたかと思います。
介護士から「なんで家族にまで気を遣わなきゃいけないんだ」という愚痴をたびたび聞きますが、その理由は「家族もその利用者の一部だから」です。
それは世界保健機構(WHO)の定める国際生活機能分類(ICF)を見ても明らかで、それだけ介護の仕事というものは大変です。
だからこそ「なぜ介護の仕事をするのか」という動機について介護士はまず考えるべきなのです。
また一方で家族には「目に見える現実ばかりが真実ではない」ことを理解していただきたいのです。
介護現場というのは想像以上に目まぐるしい所ですから、どうしても細やかな部分にまで目が行き届かない時も出てきます。普段どれだけ心を砕いて仕事に当たっていたとしても、介護士も人ですからときに落ち度も出ます。
常習的に配慮を欠く場合は家族から指摘すべきだと考えられますが、一度の失敗をも許さないというのでは介護というものは成り立ちません。
なぜなら、介護は介護士、利用者、家族、地域といったさまざまな要因がお互いに関係しあって成り立っているからです。
それもまた、ICFを見れば明らかです。
家族にとっては介護士が「環境因子」に変わるだけで、基本的な考え方は同じなのです。
このように、介護とは「お互い様」で成り立っているのです。
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また僕が介護を考えるうえで参考になった書籍を紹介しますので、よかったら一度読んでみてください。
本からの学びは揺るぎない自信へとつながっていきます。
介護を自分の「感情」頼りにするのではなく、知識や経験に裏付けられた「事実」と併せて行うことで、介護はすべての人を豊かにしていくことができるのです。
一緒に学んでいきましょう。
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