令和2年度2次補正予算において、介護サービス事業所に勤務する職員に対する慰労金の支給(新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(介護分))が盛り込まれました。
今回はこの慰労金について触れながら、現役介護士である僕の考えをお話していきます。
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(介護分)
介護サービス事業所に勤務する職員に対する慰労金の支給(新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(介護分))とは以下の通りです。
感染症対策を徹底した上でのサービス提供やサービス再開への支援
訪問系サービス事業所の介護サービス継続に向けた支援について
○ 令和2年度2次補正予算において、
・ マスクや手袋、体温計や消毒液などの購入など、感染症対策実施のためのかかり増し費用に対する助成や、
・ 介護サービス事業所に勤務する職員に対する慰労金の支給
・ サービス利用休止中の利用者に対する、サービスの利用再開に向けた働きかけや環境整備等の取組に要する費用に対する助成など、
都道府県から介護サービス事業所に対する各種の助成を盛り込んでいるところであり、この予算を活用して訪問系サービス事業所に対して支援を行うことも考えられる。
支給される詳しい内容はこの通りです。
1 感染症対策の徹底支援
訪問系サービス事業所の介護サービス継続に向けた支援について
○感染症対策を徹底した上での介護サービス提供を支援【事業者支援】
(感染症対策に要する物品購入、外部専門家等による研修実施、感染発生時対応・衛生用品保管等に柔軟に使える多機能型簡易居室の設 置等の感染症対策実施のためのかかり増し費用)
○今後に備えた都道府県における消毒液・一般用マスク等の備蓄や緊急時の応援に係るコーディネート機能の確保等に必要な費用【都道府県支援】
2 介護施設・事業所に勤務する職員に対する慰労金の支給
○ 新型コロナウイルス感染症が発生又は濃厚接触者に対応した施設・事業所に勤務し利用者と接する職員に対して慰労金(20万円)を支給
○ 上記以外の施設・事業所に勤務し利用者と接する職員に対して慰労金(5万円)を支給
3 サービス再開に向けた支援
○ ケアマネジャーや介護サービス事業所によるサービス利用休止中の利用者への利用再開支援(アセスメント、ニーズ調査、調整等) 等
介護サービス事業所に勤務する職員に対する慰労金の支給として最大で20万円を支給する、というのがおおよその認識かと思います。
「6月30日までに通算で10日以上勤務した者」を対象とする旨も後日追加され、多くの現役介護士が当てはまるものとなります。
厳しい現実と向き合いながら介護業務に勤しむ人々にとっては喜ばしい話で、7月に事業所へ通知がされ、実際に支給されるのはそれ以降になるという見通しです。
介護士の「お金をもらう価値」とは
介護士の給料が一般企業に勤める方と比べて少額だというのは周知の事実です。
マイナビ転職による「【全312職種】2020年版 職種別 モデル年収平均ランキング」によれば、介護職・ヘルパーの年収平均は419万円で284位となります。
しかもキャリアアップしたサービス提供責任者に至っては408万円で294位、ケアマネージャーが386万円で303位という現実は「介護士は金銭面では昇進しない方が正解」という職業としての歪みを数値の上で明らかにしています。
(経験上「夜勤手当」「介護職員処遇改善加算」がこの歪みを生み出しているのではないかと推測します)
その中で国から慰労の名目でお金がもらえるわけですから、介護士としてはすぐにでも欲しいでしょう。
支給は「職員一人につき一回」とはいえ最低でも5万円はもらえます。夜勤手当が一回5000円だとしても夜勤十回分ですから、夜勤の労苦を思えば相当な価値があるものだと言えますね。
今回の慰労金に思うこと
ここからは「現役介護士である僕が今回の慰労金に対してどう思うか」についてお話していきます。
まずは感謝を。
ともすれば日陰になりがちな介護従事者にスポットを当てるというのは、今なお自主的に不要な外出を控えて利用者さんへの感染リスクを抑えている介護士にはありがたい話です。
そのうえで。
「それでもこうしたほうがもっと良かったんじゃないか?」と思うことが2点あります。
①「新型コロナウイルス感染症が発生又は濃厚接触者に対応したかどうか」で金額に差を付けない方が良かったのでは?
②「慰労」ではなく「褒賞」のほうが良かったのでは?
どちらも一見して「いや、別にもらえるならどうでもいいんじゃない?」と思われるかもしれませんが、一つひとつを紐解いていくと案外そうでもないことが見えてくるかと思います。
①「直接対応したか」で差をつけるのは?
新型コロナウイルス感染症が発生又は濃厚接触者に対応したかどうかで、5万円もらえるか20万円もらえるかに差が出るのが今回の慰労金の特色になります。
感覚的にも「感染リスクが高い人のほうがより多くもらえるのは当たり前だよね」とすんなり理解できます。
しかし一方で、金銭的な差をつけるというのは「感染対策に努め、利用者への感染を未然に防ぎ続けていること」が直接対応したことよりも評価が低いということにもなります。
そもそも自分自身も含めて「感染しているかどうか」が明確ではない現状で「感染したか」で差をつけるのは公平性に欠けます。
ここ数か月の間で
「高熱などの諸症状が出て保健センターに問い合わせても『感染の疑いのある人と接触したかどうか』と聞かれて、知りようがない、わからないというだけで感染していないと言われた」
という話を何度も耳にしましたし、施設利用者が高熱だったときにも「その人の身体的特徴からなのか、それとも感染したのか」を本人を見ずに電話で症状を伝えるのみで判断するという体験をしました。
もちろん不用意に病院へ訪れることをきっかけに感染してしまうリスクもありますから、電話対応に問題があるわけではありません。「検査が受けられるかどうかは電話相談を受けたときの状況次第」ということです。
検査が満足に受けられないわけですから、自分たちが気づいていないだけで既に感染していて、今まではたまたま無症状でいるだけかもしれないのです。
この状況を受けてか6月19日に新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)が厚生労働省よりリリースされました。
新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA) COVID-19 Contact-Confirming Application
これまでに比べて感染者との接触が確認しやすくなったため検査への道のりが近くなったと言えます。
また、介護従事者の多くは夜勤勤務も行います。利用者さんが眠る中でも夜勤者はよく眠れているか、体調を崩していないかなどを巡視しています。
ナースコールで「眠れない」と呼ばれれば行って話を聞いて安心してもらい、
巡視でトイレに行かれているのに気づけば、外から転ばずに済ませられたかを気配から察して、ときには声掛けして助けがいるかの確認を取り、
早朝ともなれば20名以上の利用者さんの着替えを介助し朝食の準備に取り掛かり、
早番とともに朝食を終わらせ、ようやく夜勤の仕事を終えることには心身ともに疲れ果てているのです。
この中で免疫力を保つというのは難しい話であり、通常の勤務なら無症状で潜んでいたウイルスも弱ったところを狙って一気に活性化してしまう、といった事態も考えられます。
こうした事情の中で「感染が明らかかどうか」だけで金額の差をつけるというのは、
①「感染したかどうか」の検査までの道のりがまだ遠い
②介護士、利用者ともに感染しているか定かではない
という2点から、不公平さが生じてしまいます。
それならば
「感染している方へ介護をする人も、感染しているかわからない方へ介護する人もどちらも大変だ」
として金額を同じにしたほうが公平性は増すのではないかと考えられます。
感染者への介護と感染予防としての介護。
頑張る方向性が異なるだけで、どちらも尊いのですから。
②「慰労」で良かったのか?
気になる点はまだあります。
今回の支援交付金が「慰労」の名目で渡されることです。
「慰労」とは「なぐさめねぎらう」ことですから、新型コロナウイルス感染からの多大な苦労を慰め、労う名目で国からお金がもらえるという話になります。
ところが、です。
僕たち介護士は「国に慰めてもらうため」に介護をしているわけではありません。
数ある仕事の中で何かしらの縁があって介護の仕事を選び、これまた何かしらの縁で新型コロナウイルスが蔓延するタイミングで介護の仕事をしていただけなのです。
そういった偶然をまるで「間が悪かったのだ」と言わんばかりに慰労されるというのはどうにも現実感がありませんし、かえって国がこの状況を利用している感じすら漂ってしまいます。
新型コロナウイルスへの感染は密接、密閉、密集のいわゆる「3密」を避けることが有効と言われていますが、介護士の行う身体介護は3密が当てはまります。
たとえば入浴介助では密閉した空間に数名が密集し、密接した状態で介助を行います。食事介助にしても介助中に利用者さんがむせ込めば肺から出た空気を否応なしに触れることになりますし、排泄介助は言わずもがな。
このような業務を介護士は日常的に行い、そのうえで肉体的・精神的な疲労をため込んでいくわけですから、どうあっても他の仕事より感染リスクは高くなります。
であれば当然、介護士は自分や自分の家族の命を守るために介護の仕事を続けるのか、辞めるのかを選ぶ権利があるのです。
誰かに頼まれて介護をするのではなく、
まして誰かに慰めてもらうためでもなく。
これだけの危機に直面しながらも、それまでと変わらず介護をすることが自分の生き方なのだと決めているからこそ今なお介護をしているのです。
ですから。
この状況下でも多くの介護士さんが自分の意志で働くことを選んだことは、慰められるものではなく褒められるべきことです。
このような事情から、なぐさめる「慰労」ではなく褒める「褒賞」のほうが相応しいと考えるのです。
なぐさめられるより褒められた方が、仕事にも精が出ますからね。
まとめ ~お金は使えばなくなるけれど~
今回は新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(介護分)と、介護士としての見え方についてお話ししました。
「そういう風に考える人もいるのね」くらいに思ってもらえると幸いです。
最後に一つ思うのは、もしもらえるのがお金ではなく賞状や勲章だったらどうなっていたか。
多くの介護士さんから「そういうの良いからお金もらえばいいじゃん」と言われてしまいそうですが、思うところがあるのです。
お金は、使えばなくなります。
僕たち介護士が今も新型コロナウイルスの脅威と向き合うながら頑張る日々が5万円から20万円のお金となって労われるというのは、介護士の未来にとって幸福かどうか。
目に見えない恐怖と戦いながら得たお金をどのように使うにしても、それは泡のように消えてしまうのです。
まるで初めからなかったもののように。
今はまだ世間の記憶に新しいものですから、僕たち介護士が懸命に働いていることを覚えてもらえるでしょう。しかし、1年後、2年後、3年後と歳月を重ねていくうちに人の記憶はあいまいになります。
すると、こう言われるようになるでしょう。
「ああ、そういえばあの時介護士さん頑張ってたよね。お金もらえてよかったね」と。
本当に、これでよかったのでしょうか。
命を懸けてまで介護をした成果としてお金をもらい、人々の記憶に「あの時お金がもらえた人」と残されるのは、介護士にとって幸せなのでしょうか。
これがお金ではなく賞状や勲章だったら、それは記録として残ります。
どれだけ歳月が過ぎようとも当時の活躍が形となって残っていますから、それらを見るたびに人々は思い出すでしょう。
「あの時介護士さんが頑張ってくれたからウチの家族は安心して暮らせたんだ。本当にありがとう」と。
このように感謝される介護士は多くの人から信用されます。
これからの時代を鑑みると、目先のお金より長く残る信用をいただいた方が介護士にとっては幸せだったように思います。
特に人から憧れられる職業として介護士が注目されるようになれば、むやみにお金をばらまいて人を集めようとするよりよほど人手不足を解消できたでしょう。
そう思うと、やっぱり勿体ないなぁと思うのです。
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