僕がここ数年でいろんな人と出会った中で
「ゆくゆくは社会のために頑張りたい」
「僕もナカさんみたいに社会貢献ができる仕事がしたい」
というようなお話を伺いました。
今回はこの「社会貢献」について、直接人を支える仕事をしている僕の視点をお話していきます。
介護における社会貢献とは
介護は、加齢や病気などによって利用者さんが自分一人では行うのが難しくなった生活を支えていく仕事です。
朝起きて顔を洗ったり身だしなみを整えたりするところから、食事や排せつ、入浴といった大掛かりなところまで、その人が自分らしく生活するうえで必要となるサービスを提供しています。
このように人々の役に立つ介護という仕事は社会への貢献度が高いものとみなされますし、実際にサービスを利用する方々からの感謝が深いものです。
それまでは「誰の世話にもならない」と決めていた方でさえ自分一人で生活するのが難しくなり介護サービスを利用すると、初めこそ抵抗感が強いものの介護士の絶え間ない努力によって次第に受け入れるようになります。
頑なに拒んできたお風呂に久々に入ったときの利用者さんの柔和な顔つきを見るのは、介護士にとって自分の介助がその人の幸せに貢献できたと実感できる瞬間ですね。
介護における貢献とは、多くの場合顔が見える個人に対してになります。
そして数ある社会貢献の中でも誰かのためになっている実感を得られるスピードが段違いです。
なんと言っても目の前にいるのですから。
そしてこのように対面する利用者さんへの介護をする介護士が集まって一つの施設を回し、地域社会へ貢献していきます。
施設の社会貢献とは
「地域の中に施設があると、なんで地域社会の貢献になるの?」と思われるかもしれませんね。
実際に家族の介助をされた方は時間と労力、精神力が根こそぎ奪われていく大変さを経験されておられるでしょう。
育児も同様の大変さがあるかと思いますが、育児と介護が決定的に異なるのはゴールの方向性であり、「育児は子供の成長に対しての期待があり、介護は家族の最期に対しての畏怖がある」という点です。
介護には毎日同じことの繰り返しで、いつ終わるのか、終わらせていいのかもわからない混乱があります。その中で「自分の家族を安心して預けられる場所がある」というのは何よりも代えがたい救いのように思えるはずです。
実際に有料老人ホームでサービス提供責任者をしていた頃は、訪問介護計画の更新時にお話しするとほぼ確実に「ここに父(母)を預けられて、本当に感謝しています」とお辞儀をされました。
入所前の様子を聞いているだけに、それが礼儀からなのか心からの感謝なのかは自ずとわかります。
また家族が一時的にでも介護から解放されるのは、家族が本来持つ能力を活かす場面を増やすことになります。
特に最近では「介護離職」が話題となりましたが、それまで介護をしてこなかった方がその日から急に親の介護をしてもうまく行きません。
たとえ子育てを経験された方であっても、自分より高齢の親を子育てと同じ感覚で介護してしまったら、介護を受ける親の自尊心を著しく傷つけてしまいます。
場合によっては生きる気力を失って介助者に依存したり認知症を引き起こしたりして、より重度の介護が必要になってしまいます。
ただでさえ親にはそれまで子を育ててきた自負があります。その自負を傷つけまいと「子の世話にはなりたくない」と介助を拒否し、結果生活がままならなくなることも十分あり得ます。
このような状況を解放し、家族が社会の中で本来の力を発揮できる機会を支えること。
施設の社会貢献とは、その地域に住む人々の「介護の担い手」となって社会全体をより良い方向へと導く手助けになることなのです。
一般の社会貢献とは
ここまで介護に焦点を当てて社会貢献を見てきましたが、では一般の社会貢献はどうなのでしょうか。
特に普段は企業で働く方から「社会に貢献したい」という話を何度もうかがうので、このあたりを整理してみたいと思います。
結論から言いますと、経済を回している以上誰もが社会貢献をしています。
現代人は生きていくうえで何かしらの形で経済活動をしていますから、この世の中で社会貢献をしていない人はいないわけですね。
なぜなら、福祉サービスを続けるうえで欠かせない社会保障費の財源は社会保険料や公費などで賄われているため、直接的・間接的を問わずに生活をするだけで税を納めて社会に役立っているからです。
ただ介護を始めとした福祉と異なり、「社会貢献した」という実感が得られにくい点で、「自分も何か社会に貢献したい」と感じられるものと推測します。
逆に言えば「社会貢献がしたい」からと言って、今の職を捨てて社会貢献事業を立ち上げたり既存の慈善活動に参加したりすることは、社会全体でみれば財源の損失でもあるわけです。
立ち上げた事業が軌道に乗ったり、慈善活動によって直接的に誰かを助けられたりすれば良いのかもしれませんが、いま確実に社会貢献できている状態を捨ててまで「あなたがやるべきことか」は考えた方がいいでしょう。
あなたは既に十分社会に貢献しているのですから。
社会貢献をする前に考えるべき、二つの問い
「今の自分が社会に貢献できているのはわかった。ただそれでも社会貢献がしたいんだ!」という方は、実際に動き出す前に以下の二点について考えてみましょう。
①自分が社会貢献したいと思うのはなぜか
(社会貢献が「逃げ」の理由になっていないか)
②自分のやりたいことが社会貢献になっているか
(実際に行うことで助かる人の顔と名前が具体的に思い浮かぶか)
この二点に対して、家族や友人が聞いて納得してもらえるような答えが出せないうちはやらない方が無難です。自分の親しい人すら納得させられないようなら、社会に出したところで理解されないのですから。
答えの出し方については、「なぜ」という問いを答えを出すたびに投げかけ、それを三回ほど繰り返してみてください。
たとえば
「社会貢献をしたいのはなぜ?」→「人の役に立ちたいから」
「なぜ人の役に立ちたいの?」→「人が喜んでいるのを見るのが好きだから」
「なぜ人が喜ぶのを見るのが好きなの?」→「心が救われたような気になるから」
「なぜ救われたような気になるの?」→…
といった具合に、問いに答えるうちに内容が本質的になり誰が聞いても納得できるものへと仕上がっていきます。
こうして答えを磨き上げていく中で、自分の抱える問題に気づくことがあります。
特に社会貢献という「他者への奉仕」は、自分の問題をすり替えて解消させようとする心の動きを生み出しやすいものです。
自分と向き合うことで「本当に自分がやりたかったことが何なのか」に気づき、それが社会貢献ではなかったのなら辞めるべきです。自分を偽って行う社会貢献は自他の両方を傷つけてしまいます。
逆にこの「なぜ?」をくぐり抜けてさえ社会貢献したいのなら、その想いは自分の本当にやりたいことと言えますから、自信をもって家族や友人に話をしてみましょう。
きっと、あなたの想いを応援してくれるはずです。
人に理解されない社会貢献は失敗する
「人に理解されない」という点で、僕自身にも苦い経験があります。
以前の記事しるしの魔術師でお話しした「しるし書店」で「介護で培った想いを届けることが人の役に立つんだ」とがむしゃらに活動したものの、その想いが広まることはありませんでした。
それどころか、成果を出すために躍起になって元々の想いすら見失いかけてしまったのです。自分の中では筋の通ったやり方だと思っていても、ふたを開けてみれば筋が悪いやり方だったわけですね。
良かれと思って頑張った結果、本来の目的を見失って目前の成果を求めてしまう。
このような失敗は誰にでもついてまわります。
だからこそ「自分が社会貢献したいと思うのはなぜか」「自分のやりたいことが社会貢献になっているか」の二点について、「本当にそうなのか?」と判断してくれる他の人の視点が必要になるのです。
まとめ ~誰のために貢献しようとするのか~
いろんな角度から社会貢献を見てきました。
中には手厳しく感じる部分もあったかもしれません。人によっては「そんな理屈ばっかり並べてないで目の前の人を助けたらいいじゃない!」と思われたことでしょう。
そう思う方にこそ聞いていただきたいのですが、僕は自身の想いの強さだけで介護現場に来て現実に打ちのめされた人をたくさん見てきました。
自分の理想を膨らませて「こんなに素晴らしいことはない」と目を輝かせて社会貢献の第一線たる介護現場に来てみれば、様々な思惑によって突き動かされる人の姿であったり、自分の常識を疑われることばかりだったりという現実と向き合うことになります。
そうして「思っていたのと違う」と思い知らされた時、引き返せるだけの環境があればよいのですが、例えば仕事を辞めて介護現場に来た人は引き返したとしてその日からどうやって生きていけばよいのでしょう。
別の仕事を探すにしても、理想を無くしたその人がどうして仕事のモチベーションを保てるのでしょうか。
あるいは現実を向き合う覚悟をして介護現場に挑んだとしても、そこに待ち受けるのは持久戦でしかありません。
理想を無くした者が行う介護はどうしても型どおりの介護にしかならず、それが利用者さんに受け入れられる可能性は低いと言わざるを得ません。
お互いの想いがすれ違い、対立して、気が付けば「言うことを利かせる介護」をしてしまう…そんな介護士の姿を実際に何度も見てきました。
そうなってしまってはもう社会貢献とは真逆です。
介護はしないまでも社会貢献を目指す全ての方は一度、自分自身と向き合うことを強くお勧めします。
自分自身と向き合うのはその方自身だけでなく、施される側をも救うことになりますから、社会貢献を目指す前にやるべきこととして自己分析をしてみてはいかがでしょうか。
自己分析に関しては以前の記事自分と向き合うべきただ一つの理由や僕は自己分析で「メモの魔力」のメモ術をお勧めするを参考にしていただけると嬉しいです。
自分の人生の軸が社会貢献とガッチリ重なったとき、周りからも応援される貢献活動が実現できると信じています。
お互いに頑張っていきましょう!
【併せて読みたい記事】
・しるしの魔術師
・自分と向き合うべきただ一つの理由
・僕は自己分析で「メモの魔力」のメモ術をお勧めする
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