今回は僕が15年ほど高齢者介護・障害者支援をしてきた中で
「認知症ケアをするならこれは知っておきたい!」
と思った本、「ユマニチュード入門」と「家族のためのユマニチュード」を紹介していきます。
認知症の方を介護をする家族や介護士に限らず、将来介護を受けることになるすべての方にとっても「ユマニチュード」を知ることで老後も自分らしく生きるためのヒントを得られますので、ぜひ最後までご覧ください。
あなたの想いは通じていますか?
介護をする人が介護士であれ、家族であれ、基本的なことは変わりません。
両者は介護の知識・技術を使う目的が「仕事」か「生活」かの差ですから、今からご紹介する本はこれから介護をはじめようと思われる方すべてに役立ちます。
・ユマニチュード入門
ユマニチュードとは、「人とは何か」「ケアする人とは何か」を問う哲学と、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法です。
認知症の方や高齢者に限らず、介護を必要とするすべての方に当てはまる汎用性の高い技法となります。
その技法を一言で表すなら「あなたを大切にしていますよ」というメッセージを「伝わるように伝える」技法です。
「伝わるように伝えるってなに?」と思われたかもしれません。
「わたしはきちんと相手のことを思ってやっています」とも。
実は、介護士や家族が「相手のことを想って」介護をしていても、やり方を間違えるとその想いが通じていなかったり、逆の印象を与えている場合があるのです。
特に介護士は仕事をするうえで多くの介護知識や技術を学びますから、「その知識や技術に従って介護をすれば適切に介護できている」と思い込みがちです。
たとえばAさんの食事介助をするときに「食べさせ方はこう」「姿勢はこう」という方法を適切に守っていたとしても、介助する介護士の表情が厳しかったり、食事を運ぶスプーンを雑に扱ったりしていれば、介助される側は恐怖を感じます。
そのうえ介護現場は20名以上の利用者さんを一堂に集めて食事介助をすることが多いものですから、どうしても一人だけを集中して見るわけにはいきません。視線を外したり、声だけ別の人に話しかけたりすることも日常的に起こります。
そうなれば介助を受ける側は「無視されている」と感じるわけですから、知識や技術だけを身に付けても適切な対応が出来ているとは言えないのです。
「あなたを大切にしたい」と思っていても、実際にやっていることでは伝わっていない。
このズレが大きくなるほど信頼関係は失われていきますから、次第に介助を拒否されたり相手の認知症状が進んだりします。
この問題を解決するためにはどうしても介護に対する考え方、すなわち哲学が必要なのです。
ユマニチュードの哲学とは
では、ユマニチュードの哲学とは何でしょうか。
それは「人間らしくある」という一言につきます。
さきほどの食事介助の例で考えてみましょう。
知識・技術に頼った介助をしながら厳しい顔つきでいたり、スプーンを雑に口に入れたりするとき、介助者は相手のことを見ていません。
介助者が見ているのはもっぱら「ちゃんと飲み込めたか」であり、心の中では「早く終わらせて次の人の介助をしないと」と思っていることも多々あります。
このとき、介助者の頭の中に目の前の「ヒト」がいるのでしょうか?
現実に見えているのは食事介助という「コト」で、思っているのも次の「コト」ではないでしょうか?
そうした「コト」が上手く行っていないことに対して焦りや苛立ちを覚え、ついついスプーンを雑に扱ってしまう。
このとき、介助を受ける側は「人間らしくある」ように扱われているでしょうか?
他業種から介護職へ移った方が陥りやすい「マニュアルの罠」でもお話ししたように、介護は体験(コト)をマニュアル通り提供するだけでは十分ではありません。
なぜなら介護が対象とするのは常に「個人(ヒト)」であり、人それぞれにたどってきた人生は異なるため、「その人に合わせる」ことが求められるからです。
そしてそれは「目の前にいる人を人として扱い、尊重する」こと抜きに実践できませんから、「人間らしくある」というユマニチュードの哲学は介護の基礎なのです。
家族のためのユマニチュード
ユマニチュード入門は、イラストを交えた優しい言葉で介護の哲学と技術を教えてくれます。
「ああ、そういうことなんだ」と思っているうちに読み終わるくらいのページ量でありながら、内容は充実していてすぐに実践できます。
特にユマニチュードの「4つの柱」と言われる「見る」「話す」「触れる」「立つ」は、仕事として介護を行う介護士にとってぜひ身に付けておきたいものです。
ここまで読み進めて
「ユマニチュードが大切なのはわかったけど、家族の介助にはやりすぎじゃない?」
と思われた家族さんもいらっしゃるかもしれません。
そのような方には家族のためのユマニチュード: “その人らしさ”を取り戻す、優しい認知症ケアがお勧めです。
家族介助によく見られる場面をイラスト付きで解説してくれますから、はじめて家族の介助をする方でも読みやすく、わかりやすい内容になっています。
家族介助の中でも特に難しい認知症ケアへ具体的なアプローチ方法が書かれていますから、自分の家族に限らず友達や知り合いに認知症の方を介助する方がいらっしゃるなら、ぜひ紹介してください。
とは言え「本に書いてある内容をやるだけでそんなに変わるものかしら」と思われるかもしれません。
目の前の家族の変わりようにショックを受けるなかで一冊の本でどうにかなるとは思えず、もう自分がすべてを抱え込むしかない、と。
そういう方にこそ、ユマニチュードは救いの手となります。
これまでお話ししてきたように、ユマニチュードはすべての人を「人間らしくある」ようにする技法です。
それは介護を受ける側だけでなく、介護をする側にも当てはまるのです。
なぜなら人を人として扱う技術と哲学を行うことで、介護する側にも受ける側と同じように「人間らしくある」ことを実現させるからです。
家族のために介助をしても反応がなかったり怒られたりする日常では、介助者自身の心身も荒んでいきます。
「どうしてこんな目に合わないといけないのか」
「また訳のわからないことで暴れだすんじゃないだろうか」
そういった不安をずっと抱えたまま息抜きもできない状況では、とても「人間らしくある」とは言えません。
特に認知症状のある方への介護は認知症への理解がなければ「不可解・理不尽の世界」ですから、その世界に引きずり込まれた介助者は混乱するばかりです。
認知症を抱える家族も自分が今までとは違うことに不安を覚えていますから、傍にいる介助者がイライラしたりピリピリしたりすると、余計に不安になってしまいます。
お互いにそうした不安のなかで衝突を繰り返せば、最悪の事態も起きかねません。
ところが、下の画像にあるような「見る」について知るだけでもそのような状況は一変します。
「相手が認識している視野に正面から入っていないと、気が付いてもらえません」
文章で書くと当たり前のように聞こえますが、こうしたことでさえ現実の介護では意識していないとできないものです。
そしてこれが出来ていないせいで相手に「何もないところから声が聞こえる」という不安を与えてしまい、認知症状を発症させるきっかけを与えてしまうのです。
認知症状によるトラブルは不意打ちみたいに介助者に襲い掛かるように見えますが、その多くはアプローチの仕方を間違えたせいで介助者自身が招いているのです。
これは専門職である介護士ですら実践できていない人もいるくらいですから、家族が何も学ばない状態で適切なアプローチをしていくのは難しいでしょう。
それもユマニチュードの技法を学んで実践することで認知症状を不要に招くのを避けられますから、家族への介助も大幅に改善されます。
今までは
「どうして急に変わったのか」
「どうしたら落ち着いてくれるのか」
その原因がわからずにパニックになっていた方も
「自分のやり方が相手を不安にさせているのかもしれない」
そのように考えられるようになれば、相手をトラブル(コト)ではなく、自分の大切な家族(ヒト)として見るようになります。
そしてユマニチュードは「あなたを大切にしていますよ」というメッセージを「伝わるように伝える」技法です。
認知症を持つ方を介助する家族にとってこれほど救いになるものも他ありません。
介助者の不安がなくなれば、相手の不安もなくなっていきます。
「ごはんまだじゃない?」「さっき食べたでしょ~」なんていうやり取りをお互い笑顔でできるようになれれば、家族への介助も楽しいものに変わっていきますね。
まとめ
今回ご紹介したのは
・ユマニチュード入門
・家族のためのユマニチュード: “その人らしさ”を取り戻す、優しい認知症ケア
の2点になります。
介助する側も受ける側も「人間らしくある」ことを目指すこの技法が広まっていくことが介護全般を良い方へ導いていきます。
お互いが人として扱われること。「お互い様」であること。
介護をこの「お互い様」でやっていけば、今日も笑顔で過ごすことができますね。
【併せて読みたい記事】
・他業種から介護職へ移った方が陥りやすい「マニュアルの罠」
「想い紡ぐ介護士、ナカさんのブログ」では皆さんのコメントをお待ちしています。
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