介護現場で働いていると自分ばかりリーダーから大変な仕事を振られていたり、風当たりが強かったりすることを感じるかもしれません。
あるいはリーダーだからといって部下の不手際の責任を一身に背負わされたり、過度な期待をされたりすることもあるでしょう。
今回はリーダーに求められる資質と、そこから導き出される「なぜ現場がうまく行かないのか」について数回に分けてお話していきます。
「リーダーとはなにか」を理解し、自分がリーダーだった場合はどう立ち振る舞えばいいのか。自分が部下だった場合はどのようにリーダーを支えればいいのかについて学んでいきましょう。
リーダーの資質とは
まずは「リーダー」の定義から見ていきましょう。
先頭となるもの。「頭領」ならび「統領」の意味合いを持つ語として用いられることがある。
リーダー -Wikipedia-
グループ、集団を代表、指導、先導、統率する存在。
このように「指導、先導、統率する存在」としてリーダーが位置付けられ、リーダーの下に日々の業務を進めていくことになります。
この辺りは大方のイメージ通りといえるのではないでしょうか。
では次に「指導」「先導」「統率」の定義をそれぞれ見ていきましょう。
指導とは、ある目的・方向に向かって教え導くこと。
指導 -weblio辞書-
先導とは、先に立って導くこと。
先導 -weblio辞書-
統率とは、多くの人々をまとめてひきいること。
統率 -weblio辞書-
この三点をまとめてリーダーの資質を見出すと
「ある目的・方向に向かい、先頭に立って多くの人々を教え導くことで全体をまとめて率いる」
ということになります。
こうして文字にするだけでもリーダーに求められるものの大きさが見えてきますね。
あとはこの定義から現状を照らし合わせればリーダーの抱える問題、そしてそこから生まれる現場の問題が見えてきます。
そしてそれは以下の3点にまとめられます。
①チームの目的・方向性を持っているか(指導)
②責任を負えるか(先導)
③環境を整えられるか(統率)
これらが複雑に絡み合って「問題」が生まれているため、一つひとつ紐解いていきましょう。
リーダーとは、ある目的・方向に向かい、先頭に立って多くの人々を教え導くことで全体をまとめて率いる存在である。
そして現場で起こる問題は
①チームの目的・方向性を持っているか(指導)
②責任を負えるか(先導)
③環境を整えられるか(統率)
これら3点が複雑に絡み合って生まれているため、一つひとつを紐解く必要がある。
リーダーの資質① 目的・方向性をもっているか(指導)
リーダーの資質「指導」について見ていきましょう。
「指導とはある目的・方向に向かって教え導くこと」ですから、リーダーは
「目的・方向性を持つこと」
「それを教えて導くこと」
の二点を実行する必要があります。
何を目的に介護をするのかわからなければ「介護をしたらどうなるか」の方向性もわかりませんし、方向性がわからなければ人に教えること、まして導くこともままなりません。
この辺りは部下のほうが敏感で、「どうしてこうする必要があるんですか?」と尋ねられて答えられないようでは「目的を失った介護」をするより他なくなります。
目的を失った介護とは言い換えれば「何をしてもいい介護」ということになりますから、介護者の都合に合わせて相手を扱うようになります。
介護者が「思い入れの強い人」であれば必要以上に手厚い(そして利用者の自立を奪う)介護をしてしまいますし、「働いて稼げればそれでいい人」であれば、指示された業務以外のことは(たとえ必要とわかっていても)やらなくなります。
目的地がわからなければ行き先もまばらになってしまうため、現場が混乱してしまうのは当然のことです。
この混乱を避けるためにはリーダーが「目的」を示す必要があります。
何のために介護をするのか、その先に何を実現するのか。
その目的と方向性を自分の言葉でわかりやすく部下に伝えることがリーダーの「指導」なのです。
自分の言葉でわかりやすく伝えるためには、まずリーダー自身が「目的」「方向性」を理解し実践していく必要があります。
リーダー自身が理解していないものを部下に伝えることなど不可能であり、またリーダーができてないことを部下がやることもありません。
「まずリーダーができてないじゃないか」と言われてしまっては指導もままならないのですから。
では、リーダーの示すべき「目的」「方向性」はどこにあるのか。
「目的」は組織の理念であり、介護で言えば「ケアプラン」や「サービス等利用計画」に記された「利用者及び家族の生活に対する意向(ニーズ)」にあります。
組織はどうあるべきか、サービス利用者はどのような生活を送りたいか。
その目的が定められているからこそ日々の業務によってその目的が達成されていくのです。
「方向性」は運営の短期・中長期計画に、介護で言えば上記プランの「短期目標・長期目標」に記されています。
これらは「目的」を達成させるための具体的な道筋、期間などが定められたもので、その方向性に従って業務をこなすことで目標を実現させ「目的」を達成させるステップとなるものです。
この「目的」と「方向性」の所在を知り、理解すること。
それらが「どのような介護をすることで実行できるのか」をわかりやすい言葉に置き換えること。
そして自ら実践することで「こうしたらいいんだよ」と部下に伝えること。
この3点がそろって初めて部下が「目的」「方向性」を実行できるようになります。そしてこの「実行できる」状態に部下を教え導くことがリーダーの「指導」であり、求められる資質なのです。
指導とは
①「目的」「方向性」の所在を知り、理解すること(理解力)
②それらをわかりやすい言葉に置き換えること(言語化能力)
③自ら実践して部下に伝えること(コミュニケーション能力)
以上3点の過程を経て「目的」「方向性」を部下が実行できるようになることである。
リーダーの資質② 責任を負えるか(先導)
リーダーの役目は「部下を導いて終わり」ではありません。部下が「目的」「方向性」を実行できるようになった後は、その部下が安心して目的達成のために行動できるようにしていく必要があります。
そのためには「部下がどこに不安を感じるか」を理解するところから見ていきましょう。
厚生労働省の「令和2年版過労死等防止対策白書(本文) 職場におけるメンタルヘルス対策の状況」によれば「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる」とした労働者のうち、その内容をみると
1.「仕事の質・量」(59.4%)
2.「仕事の失敗・責任の発生等」(34.0%)
3.「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」(31.3%)
となっています。
このうち「仕事の質・量」に関してはリーダーの「指導」でお話ししたように、「自分が何のために仕事をしているか(目的)」と「そのためには何をすればいいか(方向性)」を示され「仕事の意義」が見出されることで「質」の改善が見込まれます。
一方で部下側も「自分にとって『はたらく』とは何か」の答えを持っておくことが重要になりますから、「仕事の質」を問う場合にも「自分と向き合う」ことが欠かせません。
これはなぜかと言うと、組織・労働者の双方で仕事の価値観を照らし合わなければ「仕事の質」を定められないからです。お互いの価値観がずれてしまったら何を用意したところで「質が高い」と認めることができないものです。
また物理的な仕事量に関してはリーダーの裁量によりますから、部下の処理能力がどれほどかをよく見ておく必要があります。
成長込みで「できない」仕事量を最初から与えてしまえばただの理不尽(パワハラ)になってしまいますから、仕事を渡す際には部下の発揮できる能力と、成長してほしい部分とを示したうえで任せると安心できます。
リーダーから生まれる理不尽は「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」の一部でもありますから、「部下に何を強いているのか」について想像力を膨らませられるようになると不安の解消になります。
これに加えて「何かあったら責任は自分(リーダー)が取る」と明らかにしておくことは「仕事の失敗・責任の発生等」を解消するうえでも効果的です。
介護現場ではその介護士さんでは対応しきれない利用者さんを担当に割り振ったり、介護記録を一日に十数枚書かせたりすることがあります。急に休日出勤を要請されたり先輩から目を付けられたりと理不尽なことも多々あります。
そのなかで現場のリーダーは適切な仕事量・質を見極め、理不尽が生まれないよう配慮し対人関係を調整することが資質として求められるのです。
このようにリーダーが率先して責任を負い問題解決に勤しむことが「先導」であり、リーダーが先陣を切ることで部下は安心して働けるようになります。
先導とは
①適切な仕事量・質を見極める(分析力)
②理不尽が生まれないよう配慮する(想像力)
③対人関係を調整する(調整力)
これらを組み合わせて率先して責任を負い問題解決に勤しみ、後続により良い「環境」を与えること。
リーダーの資質③ 環境を整えられるか(統率)
「目的」「方向性」「環境」を与えることで部下が十分に能力を発揮できるようになったら、後はそういった部下をチームとしてまとめて率いていくことがリーダーには求められます。
「指導」「先導」が個人レベルの資質だとすれば「統率」は集団レベルの資質です。
部下一人ひとりを導くだけでなく部下を組ませることでより大きな目標・目的を達成させるのが「統率」なのです。
統率にあたっては、これまでにお話しした「理解力」「言語化能力」「コミュニケーション能力」「分析力」「想像力」「調整力」をチームそのものに行うことになります。
それはチームを一つの「個人」と見立てて指導・先導することであり、そのためには個々を見ながら全体を見て、「どう組み合わせるか」「どのような相乗効果を期待するか」「どのように個々をまとめるか」といったチームの「色」を決める営みになります。
よってリーダーの「統率」には
「どう組み合わせるか」という「人を見る力(観察力)」
「どのような相乗効果を期待するか」という「人を知る力(洞察力)」
「どのように個々をまとめるか」という「人を魅せる力(求心力)」
これらが求められることになります。
「観察力と洞察力ってどう違うの?」と思われるかもしれません。
二つの違いを説明すると、観察力とは「目に見える部分を見る力」であり、洞察力とは「目に見えない部分を見る力」です。
ここに「他人をひきつけてその人を中心にやっていこうとさせる力」である求心力が加わることでリーダーはチームをまとめ上げることが出来るのです。
観察力ではチームメンバー一人ひとりを観察し、「こういう部分が得意で、ここは苦手なようだ」といった人物像を作り上げます。そういった人物像を集めることで「誰と誰を組み合わせればよいか」という判断を下せるようになります。
次いで洞察力では、観察力によって作り上げた人物像を元に「この人とこの人を組ませれば互いの能力を補ったり刺激したりするだろう」「そうすることでお互いの能力を引き上げるだけでなく、新たな価値をチームにもとらすことになるかもしれない」といった予測を立てることになります。
このとき深くその人の本質を見抜かなければ、相性の悪いメンバー同士を組み合わせてチームの雰囲気を崩してしまったり、明らかにできない仕事を頼んで理不尽を生み出してしまったりするため、相乗効果を期待する際には観察力よりも洞察力が求められるのです。
そうしてメンバーの組み合わせを適切に行い、チームの環境を整えられるリーダーには自然と「この人の下で頑張りたい」「この人なら信頼できる」という具合に求心力が生まれます。
つまり統率とは「観察」→「洞察」→「求心」の過程をたどってチームをリーダー中心にまとめあげるものなのです。
統率とは「観察」→「洞察」→「求心」の過程をたどってチームをリーダー中心にまとめあげる『集団レベル』の資質である。
観察とは「目に見える部分を見る力」によって個々の人物像を作ること。
洞察とは「目に見えない部分を見る力」によって相乗効果の予測を立てること。
求心とは「他人をひきつけてその人を中心にやっていこうとさせる力」であり、チーム環境を整えた結果生まれるリーダーへの信望(信用と人望)のこと。
その目的は「部下を組ませることでより大きな目標・目的を達成させること」にある。
まとめ どれだけの力がリーダーに求められるか
リーダーとは「ある目的・方向に向かい、先頭に立って多くの人々を教え導くことで全体をまとめて率いる人」のことであり、その資質には「指導」「先導」「統率」があります。
「指導」とは「チームの目的や方向性を部下が実行できるようになること」であり、そのためには
①「目的」「方向性」の所在を知り、理解すること(理解力)
②それらをわかりやすい言葉に置き換えること(言語化能力)
③自ら実践して部下に伝えること(コミュニケーション能力)
以上の3点を身に付けることが求められます。
「先導」とは「率先して責任を負い問題解決に勤しみ、後続により良い「環境」を与えること」であり、そのためには
①適切な仕事量・質を見極める(分析力)
②理不尽が生まれないよう配慮する(想像力)
③対人関係を調整する(調整力)
これらの能力を組み合わせることが求められます。
「統率」とは「部下を組ませることでより大きな目標・目的を達成させること」であり、そのためには
①観察力という「目に見える部分を見る力」によって個々の人物像を作ること。
②洞察力という「目に見えない部分を見る力」によって相乗効果の予測を立てること。
③求心力という「他人をひきつけてその人を中心にやっていこうとさせる力」であり、チーム環境を整えた結果生まれるリーダーへの信望(信用と人望)。
「観察」→「洞察」→「求心」という過程をたどってチームをリーダー中心にまとめあげる力が求められます。
このようにまとめられると、リーダーに求められる資質の多さに驚かれたのではないでしょうか。
そして「いや、ウチのリーダーにはこんな能力はない」と感じたのでは、と。
この「定義」と「現実」のズレこそが「リーダーは理不尽だ」という想いが生まれる原因であり、次回は理不尽が生まれる構造についてお話していきたいと思います。
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介護を自分の「感情」頼りにするのではなく、知識や経験に裏付けられた「事実」と併せて行うことで、介護はすべての人を豊かにしていくことができるのです。
一緒に学んでいきましょう。
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